![]() 物理層解析
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*PeRT3による
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基本構成 | 数量 | |
SDA 813Zi-A | 13GHz、40GS/s、32Mポイント | 1 |
QPHY-USB3-TxRx | USB3.0ソフトウェア | 1 |
USB3ET* | USB3.0テスト・フィクスチャ1 | 1 |
WM8Zi-EYEDR ll | イコライザ・ソフトウェア | 1 |
WM8Zi-JC | オシロ本体の校正証明書 | 1 |
推奨オプション | 数量 | |
D1305 | 13GHz差動プローブ | 1 |
D13000SI | 半田付けリード線(予備用) | 1 |
OC-1021 | 専用台車 | 1 |
【USB2.0コンプライアンス・テスト用】 | ||
QualiPHY-USB | USB2.0ソフトウェア | 1 |
TF-USB-B | テスト・フィクスチャ | 1 |
WL-Plink-A | 差動プローブ本体 | 1 |
D320 | 3GHz差動プローブ | 1 |
ZS1500 | 1.5GHzFETプローブ | 2 |
CP030 | 30A電流プローブ | 1 |
USB3ET* テスト・フィクスチャ
* USB3ETは、USB-IFにお問い合わせ下さい。
対応機種 | 帯域 | 最高 サンプリング速度 |
最大メモリ |
WaveMaster 8Zi-Aシリーズ 813Zi-A/816Zi-A/820Zi-A/825Zi-A/ 830Zi-A/845Zi-A |
13〜45GHz | 120GS/s | 768Mポイント |
SDA 8Zi-Aシリーズ 813Zi-A/816Zi-A/820Zi-A/825Zi-A/ 830Zi-A/845Zi-A |
13〜45GHz | 120GS/s | 768Mポイント |
DDA 8Zi-Aシリーズ 820Zi-A/830Zi-A |
20〜30GHz | 80GS/s | 512Mポイント |
WaveMaster/SDA/DDA 813Zi-A または、それ以上の帯域の製品*
* QPHY-USB3-Tx-RxにはSDA2またはSDA3、Eye Doctor IIが必要です。
オーダー・インフォメーション
モデル名 | |
QPHY-USB3-TX-RX | USBアプリケーション・ソフトウェア QualiPHY(自動テスト/レポート作成ソフトウェア)含む |
WM8Zi-SDAII | WaveMaster 8 Ziオシロスコープ用SDA IIソフトウェア・オプション |
WM8Zi-EYEDRII | WaveMaster 8Ziオシロスコープ用Eye Doctor IIソフトウェア・オプション |
関連資料 | |
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QPHY-USB3-Tx-Rx USB3.0テスト・ソリューション - PDF 750K |
物理層解析 概要
USB 3.0、スーパースピードの物理層はPCI Express Gen2と多くの共通点を持っています。大きな伝送路の減衰に対応し5Gb/sの高速信号を正しく伝送させるための工夫が必要です。図1にはUSB 2.0規格のケーブルの減衰特性を示しています。
図1 USB 2.0規格のケーブルの減衰特性
このように800MHzを超えると大きな減衰があることが図1でも分かります。当然ながら5Gb/sのスーパースピードの信号伝送を安定的に行うことは無理だということが容易に想像することができます。従ってスーパースピードではUSB 2.0とは別の伝送線を使用します。図2にはスーパースピードのケーブル減衰特性を示しています。
図2 スーパースピードのケーブル減衰特性
1.25GHzで5dBの減衰となっているようにUSB 2.0のケーブルと比べ明らかに良好な高周波特性を有しています。しかしながら5Gb/sの最速データ信号の基本波である2.5GHzで7.5dB、その3次高調波の7.5GHzでは25dBもの減衰を示します。このように減衰特性は、周波数が高いほど減衰が大きくなるローパスフィルタのような効果を持ちます。このような環境下では、データ信号がパターンによって、その減衰量を変えるのでパターン依存と呼んだり、符号間干渉、英語でInter- Symbol-Interference(ISI)と呼ばれます。
図3は、符号間干渉の影響を示すために、符号間干渉のない理想的な波形と、符号間干渉が起きた波形を重ね合わせ、減衰した部分を塗りつぶしています。短いパルスが減衰しているだけではなく幅広いパルスの減衰もエッジの直近が大きく、エッジから離れるに従って減衰が小さくなっています。その結果、図4に示したようにアイパターンが乱れ、開口が小さくなるだけでなく、クロスポイントが4つに分かれて見えるようにデタミニスティックジッタが顕著になります。
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図3 塗りつぶされた部分が減衰 |
図4 アイパターンが乱れている |
デエンファシス
このように、あらかじめ減衰する部分とその大きさが推定できていると、送信器の出力を調整して補正することが可能です。つまり減衰する部分をあらかじめ強化して送信することが考えられます。これはプリエンファシスと呼ばれる方式ですが、高周波成分を強調するのはEMIの観点からは望ましくありません。そこで、プリエンファシスと同様に符号間干渉の影響を補正しながら良好なEMIを保つ方式としてデエンファシスが採用されています。これは、減衰する高周波成分に合わせて低周波成分をあらかじめ減衰させておくという方式です。
図5 デエンファシス実施前後の波形を重ね合わせ、減衰させる部分を塗りつぶしている
図5にデエンファシスを行う前と後の波形を重ね合わせ、減衰させる部分を塗りつぶしています。このように送信側で波形を操作することで伝送線の減衰による符号間干渉の補正を行うことができます。前回紹介したPHY Interface For the PCI Express and USB 3.0 Architectures Version 3.0を見てみると、表1のようにデエンファシスには−3.5dBと−6dBが選択できるようになっていますが、−6dBが選択できるのはPCI Expressモード時のみで、USB 3.0モードでは−3.5dBだけが許されます。同じ5Gb/sの高速信号を取り扱い、最大3メートルのケーブルの使用を認めていて、より大きな減衰が予測されるにもかかわらず、PCI Expressよりも少ないデエンファシスにしているのには理由があります。
表1 PHY Interface For the PCI Express and USB 3.0 Architectures
伝送路の条件変動
PCI ExpressとUSB 3.0スーパースピードは、その使用環境の違いにより、いくつかの技術的機能の差異があると話をしました。PCI Expressは、基本的にパソコン内部バスであるので使用条件などで伝送線路が変更されることはありません。従って、設計段階で想定される伝送線路に対して最適化すればよいということになります。しかしながら、USB 3.0では、USB 2.0との下位互換性がうたわれており、USB 2.0と同様の使用環境を想定しています。つまり、パソコンの外部周辺機器を自由にかつ簡便に接続することが必要になります。これを実現するには、接続する機器によって大きく変わる伝送路に応じて信号品質の最適化を行わなければなりません。
USBメモリのようにAコネクタに直結する場合と、最大3メートルのケーブルで接続する場合では、伝送路の減衰が大きく異なります。また、USB 2.0と同様の利用環境を想定しているために、図6のように現行同様にパソコンの前面パネルおよび背面パネルにUSBコネクタを配置することが想定されます。この場合に、前面パネルと背面パネルではプリント基板のトレース長が大きく異なり、伝送路の減衰特性がここでも大きく異なることが分かります。リアパネルに3メートルケーブルで機器を接続した場合にも、フロントパネルに直結でメモリを接続した場合にも同様に安定した通信を確保しなければなりません。
図6 USBコネクタの想定配置例
イコライザ
そこで、USB 3.0スーパースピードで採用されたのがイコライザという手法です。図7にUSB 3.0規格で示されたリファレンス・イコライザの特性を示しました。
この特性を見ると、3GHz付近にピークがあり、高周波ブースト特性を持つローパスフィルタと見ることができます。目的はデエンファシスと同様に伝送路で減衰した高周波成分を補強することです。デエンファシスと異なるのは、この操作が送信器ではなく受信器で行われることです。受信器で行われるので、プリエンファシスのようなEMI問題の発生はありませんので、大きなブーストを行うことが可能です。また、デエンファシスよりも細かな特性の調整が行えます。
図7 USB 3.0規格のリファレンス・イコライザ特性
ここに示したリファレンス・イコライザの特性は最長伝送路のモデルで最適化されたものにしかすぎませんので、実際のイコライザ特性がこのとおりである保証はありません。それどころか、実際のICに実装するイコライザの方式と特性についてはメーカーの裁量に任されており、リファレンス・イコライザで示された特性であるContinuous Time Linear Equalization(CTLE)である必要はなく、ほかのシリアル伝送で実績のあるFeed Forward Equalization(FFE)やDecision Feedback Equalization(DFE)などの方式を取ることも許されています。
図8には、イコライザによってアイパターンが改善する様子を示しています。図左上には伝送路の減衰で符号間干渉が起きた波形、その下にはイコライザで高周波をブースとして符号間干渉を補正した波形、右には補正後の波形で描いたアイパターンが示されています。
図8 イコライザによってアイパターンが改善する様子
USB 3.0スーパースピードでは、さまざまな接続状況で異なる伝送路の減衰に対応してイコライザを最適化するためのメカニズムが用意されています。トレーニングシーケンスと呼ばれ、実際に通信を開始する前にTSEQオーダーセットという特殊なパターンを流し、これを基にイコライザの最適調整を行うというものです。図9には、このTSEQオーダーセットの周波数スペクトルを示してますが、広い範囲に渡って周波数成分が分布していることが分かります。
図9 TSEQオーダーセットの周波数スペクトル
このように、USB 3.0スーパースピードでは常に通信開始前にイコライザの最適化を行って、安定な通信を確保するようになっています。従って、イコライザ側で全体特性の最適化を行うので、前述のデエンファシスは弱めの設定にしてあるとも考えられます。
ジッタの評価
アイパターンの評価については一般的にマスク試験が行われてきました。USB 3.0スーパースピードでもSIGTESTという専用プログラムによるマスク試験がありますが、このマスク試験で評価するのはアイパターンの縦軸の開口 EyeHeightのみになります。横方向であるEyeWidthについてはジッタによる評価に委ねるということにしています。このジッタの評価方法でも、USB 3.0スーパースピードは若干ほかの方式とは異なるのでここで紹介しておきます。
現在のシリアルインターフェイスにおいて、ジッタ評価はDual Diracモデルを使ったものが主流となっています。ジッタの成分にはランダム成分とデタミニスティック成分があるというのは、一般常識化しています。実際のジッタのデタミニスティック成分はもっと複雑なのですが、Dual Diracモデルはこのランダム成分とデタミニスティック成分との組み合わせを単純化したものです。ランダム成分はガウス分布に従い、デタミニスティック成分は、2カ所のみに現れ、これにより、2つのガウス分布を重ね合わせたものが全体のジッタの分布であるとするものです。よく見るTj=Dj+14Rjという式は、まさにこのDual Diracモデルから導き出されたものです。エラーレイトが10の−14乗におけるガウス分布の幅が、標準偏差で示されるRjの約14倍になることから得られます。
図10 Dual Diracモデル
ところが、この式から分かるようにRjの値の誤差はTjの寄与としては14倍にもなるため、正確にRjを計測することが望まれます。一般的には疑似ランダムシーケンスを用いてアイパターンおよびジッタの計測を行います。USB 3.0でも同様に疑似ランダムシーケンスをコンプライアンスパターンとして送出するようにしてあります。
前回の解説の図6で示されたLink Training and Status State Machineの右上にあるCompliance Modeでは、CP0(Compliance Pattern 0)と呼ばれる疑似ランダムシーケンスが流れるようになっています。PCI Expressと同様にパッシブな負荷を接続して電源を入れると、このモードに自動的に入るようになっています。
しかしながら、この疑似ランダムシーケンスにはISI成分など複雑なデテミニスティック成分が含まれており、計測上ランダム成分の分離に際して誤差を最小化することが困難であるとされます。そこで、USB-IFでは、ランダム成分の測定にはデタミニスティック成分が単純なクロックパターンである CP1(Compliance Pattern 1)を用いることにしています。CP1でRjを計測してからCP0でのDjおよびTjの計測に利用するという2段階方式のジッタ計測を行います。 5Gb/sでタイミングマージンが厳しくなる中、より正確なジッタ計測を行うための手法となります。なお、CP0とCP1の切り替えには Ping.LFPSという信号が必要になりますが、LFPSについては次回に解説を行います。
図11 SIGTETの試験結果
図11にSIGTETの試験結果を示します。アイパターンが2つありますが、左がエンファシス・ビットと呼ばれるエッジ直近の1ビットのアイパターン、右はデエンファシス・ビットと呼ばれるトランジション・ビット以降のビットのアイパターンです。真ん中のひし形のマスクが小さく見えるのは、横軸の評価をしないために幅が狭くなっているからです。
このように、USB 3.0スーパースピードでは信号品質を守るためにさまざまな手法が用いられています。